ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2017年5月15日号 3面・解説

フランス大統領選で
マクロン氏が勝利


不満噴出、世界的政治危機さらに

 フランス大統領選の決選投票が五月七日、投開票され、マクロン元経済産業デジタル相が極右・国民戦線(FN)のルペン候補を破って当選した。各国支配層は「ポピュリズムに歯止め」などとひと安心している。だが、英国国民投票で欧州連合(EU)からの「離脱」、さらに米国でトランプ政権を誕生させた世界的な政治の激動は、いちだんと激しさを増している。


 決選投票で、マクロン氏は六六・一%を得、対するルペン氏は三三・九%であった。欧州財界をはじめとする世界の支配層は、「EUへの積極参加」を掲げたマクロン氏が勝利したことに安堵している。

二大政党への不満噴出
 マクロン氏は、オランド前社会党政権下で閣僚を務めた人物だが、政党「アン・マルシェ(前進)」(大統領選挙後「共和国前進(REM)」に改称)を結党してから一年程度にすぎない。
 四月二十三日に行われた第一回目の投票では、二大政党が惨敗した。共和党のフィヨン元首相、社会党のアモン元国民教育相は三位、五位と惨敗、合わせて二六%程度しか得られなかった。また、四位には約一九・六%を得て、左翼党(社会党左派と緑の党の一部が合流した党)のメランション候補が食い込んだ。
 立場こそ違え、EUへの「反対」もしくは「懐疑」を唱える候補が、合わせて四割を超えたのである。緊縮財政策に反対する候補への支持にいたっては、主要候補以外も含めれば半数を超えた。
 さらに今回の決戦投票では、投票率は七四・五六%にとどまり、第一回目から一・二二ポイント下落し、一九六九年(ド・ゴール大統領退陣直後)の大統領選挙以来の低さとなった。しかも、無効・白票は合わせて一一・四七%に達し、両候補のどちらかに投票した有権者は三人に二人にも足りない。
 これらを見れば、「ポピュリズムに歯止め」という支配層の評価は正確ではない。既存の政治・政党、とくに二大政党への強い不満が噴出したということができる。マクロン氏は「清新」を装い、有権者の既成政党への幻滅を利用して政権に就いたのである。

危機深まる中での選挙
 昨年秋以降、世界経済のさらなる低成長が顕在化した。世界的規模で、英国国民投票での「EU離脱」、米国でのトランプ政権誕生など、経済危機は政治に反映し、激しく揺さぶっている。
 フランス経済は、低成長と一〇%を超える失業率、格差拡大など深刻な状況にある。失業率はドイツや英国の二倍以上で、若年層に限れば約二五%が失業している。昨年の新規採用者の、実に八六・四%が一時雇用で、うち八〇%は契約期間が一カ月未満の超不安定雇用である。一方で長期失業率は高止まりし、失業者の四割以上に一年以上仕事がない。労働者は生活の糧を奪われ、困窮を深めている。
 ギリシャやスペインほどではないが、国家債務も累積している。
 二〇一二年に誕生したオランド前政権は、就任当初の二年ほどの間は、富裕税の導入など、リーマン・ショック後に困窮する低所得者層の不満に応えるかのような政策を行った。だがその後は、労働法制改悪などを断行し、支持基盤の労働者を裏切り続けた。国民、とくに労働者の不満はますます高まった。
 これを基礎に、難民の増大や「テロ」が、政治・政党への不信をいちだんと高めた。
 大統領選挙は、こうした世界史的変化のなかで行われた。

地方の不満吸収したルペン
 危機を背景に、「イスラム教徒外国人の追放」など排外主義的な政策を掲げる極右候補である、ルペン氏への支持が広がった。
 ルペン氏が第一回目投票で一位となった選挙区は、フランス北東部、南東部を中心に、ほとんどが地方である。保守層を含んで、都市部との格差に対する憤りが伺える。
 それだけでなく、最大の工業都市であるダンケルク周辺、最大の港湾都市マルセイユ周辺など、労働者が多い地域でもルペン氏は支持を集めた。
 ダンケルクの鉄鋼、重化学工業などは産業衰退が著しく、労働者は塗炭の苦難を押し付けられている。その上、「労使協調」の労働組合が支配的で、労働者の利益を代弁できていない。マルセイユの郊外には貧困層が多く、ここでもルペン氏が四割以上の支持を集めた。
 ルペン氏は、これらの行き場のない労働者、とくに下層労働者の不満をすくい取った。ルペン氏は、規制緩和に熱心なマクロン氏を「雇用の破壊者」と批判、「労働者の味方」を装った。また決選投票では、「反グローバリズム」を掲げ、「反エリート」気運の強いメランション氏の支持者の一部も取り込んだ。決選投票を前に、ルペン氏が「反EU色」を薄めるなど、党の「穏健化」を図ったことも影響した。
 こうして、ルペン氏は決選投票で一千六十万票余りを獲得した。FNが「歴史的」と総括しているのは、決して誤りではない。
 一方のマクロン氏だが、第一回投票結果を見ると、マクロン氏が第一位となった選挙区は、従来、社会党が地盤としていたところが多い。フランス西部、南西部、さらに東部の一部である。社会党は「アン・マルシェ」に支持基盤を切り崩されたのである。とくにマクロン氏への支持が多かったのは首都パリで、決選投票では九割が「マクロン票」であった。都市富裕層は、銀行出身のマクロン氏を支持する根拠があった。また、決選投票に進出できなかった二大政党の支持者は、「極右よりまし」とマクロン氏を支持した。
 ルペン氏の前進は、米国でトランプ氏が、「ラストベルト地帯」と呼ばれる白人労働者の多い地域に注目し、既成の政治・政党への不満の受け皿となったことに似ている。

マクロン新政権は前途多難
 マクロン政権の前途は多難である。
 マクロン氏を支持したのは、第一回目の投票で全有権者の約一八%、決選投票でも五割に満たない。決戦投票でマクロン氏を支持した有権者の多数は「反極右」票、いわば「消極的支持」である。マクロン政権の政治基盤は、もともと強くない。
 マクロン大統領は投資銀行出身で、オランド政権の閣僚時代は、日曜労働の規制緩和、長距離バス路線の自由化などを含む労働法制の改悪(マクロン法)を断行、タクシー労働者の反発を無視し、配車アプリ「ウーバー」を擁護し続けた。今回の選挙公約でも、法人税率引き下げ、労働規制の再緩和、年金制度改革などの改革加速によって、仏多国籍大企業の競争力を回復させることを掲げている。大統領はまさに、金融を頂点とする多国籍大企業の手先である。労働者が支持できる政権ではない。
 マクロン政権がこれらの政策を実行するには、議会の承認が必要である。マクロン大統領はすぐさま、誕生わずか一年程度の自党を率いて、六月中旬の国民議会選挙(総選挙)に勝ち抜かなければならない。最近の世論調査では、REM、共和党、FNが二〇〜二五%という僅差の支持で第一党を争っており、議席数の過半を得られる保証はない。結果次第では、共和党や社会党との連立政権、もしくは首相の座を明け渡す「コアビタシオン」(共存政権)となる。有権者に愛想を尽かされた既成政党の協力を得ざるを得ないことになるわけで、新政権は、すぐにも求心力を失いかねないのである。
 マクロン政権の行き詰まりは、FNや左翼党にとってチャンスであるだけでなく、政治再編の芽をはらんでいる。
 とくに今回、社会党候補は第一回目投票で六%台の得票と大惨敗した。党内右派はマクロン氏を支持し、国会議員も「鞍替え」が相次ぐなど、事実上の分裂状態にある。先のオランダ総選挙でも、社民主義の労働党は大敗した。
 危機の深まりのなか、労働者を裏切り続ける社会民主主義者の犯罪性と限界は、いちだんと明白である。先進国の労働者階級が革命政党を形成することは、ますます切実な課題となっている。
 EUの中核国であり、共通通貨ユーロ圏で第二の経済大国であるフランス政治の不安定化は、欧州の経済・政治に波及せざるを得ない。今秋のドイツ総選挙、来春にも予想されるイタリア総選挙など、欧州は引き続き「政治の季節」である。英国のEU離脱をめぐる交渉もあり、ギリシャの債務危機も継続している。これらの結果は、地政学的リスクとなって、世界経済・政治を不安定化させかねない。
 トランプ米政権の誕生を契機とする世界の激動は、さらに加速している。(K)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2017