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2017年3月25日号 2面・解説

G20/共同声明から
「保護主義反対」消える


対日要求激化を予感させる事態

 ドイツのバーデンバーデンで行われた二十カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が三月十八日、閉会した。トランプ米政権の成立後、初めての会合となったが、従来の共同声明に盛り込まれていた、保護主義への「断固たる反対」という文言がなくなった。「米国第一」を掲げたトランプ米政権による「大津波」で、諸国の国益は露骨にぶつかり合い、国家間矛盾がいちだんと激化してきている。


 G20は、二〇〇八年九月のリーマン・ショック直後の十一月、米国ワシントンで開かれた会合を手始めに、年に数回のペースで開かれてきた。それ以前、世界経済の政策協調機関として主要な位置を占めたのは主要国首脳会議(G8、現在のG7)であった。だが、中国をはじめとする新興国の台頭と米国など帝国主義国の衰退を背景に、G8だけでは危機対応が不可能になっていた。この状況を背景に、中国、ブラジル、南アフリカ、サウジアラビアなどの諸国を加えたG20で、危機対応のための政策協調が図られるようになったのである。

危機で困難さ増すG20
 以降の約九年間、G20は、ショック直後の「国内総生産(GDP)二%の景気対策」を手始めに、財政再建策の目標設定や金融規制など、数々の合意を繰り返してきた。会議後の共同声明では、毎回、「あらゆる保護主義に反対する」「競争的通貨切り下げを行わない」などの文言が含まれた。
 実際には、こうした合意は守られなかった。
 各国は、現実には、保護主義的政策を実施してきた。リーマン・ショック後、米国が景気対策で導入した「バイ・アメリカン条項」、わが国による「エコカー減税」「エコポイント」など、自国製品の市場確保を優先する政策を、陰に陽に行った。先進諸国の空前の金融緩和政策も、「通貨戦争」と言われた通り、事実上の通貨切り下げによる輸出振興政策でった。
 諸国の景気対策と先進国による金融緩和にかかわらず、とくに一一年以降、世界の実体経済はいちだんの低成長という危機的な状況に入った。
 これを背景に、諸国は自国経済再建のため、他国に犠牲を転嫁する政策を強化した。危機の深まりで国内の階級矛盾が激化し、政府は揺さぶられ、自国優先策、対外強硬策をとらざるを得なくなったからである。諸国の市場・資源争奪が激化、国家間対立もまた激化した。
 先進諸国と新興国の間では、国際通貨基金(IMF)改革や緩和政策による国際的な資金移動をめぐって、米欧間では金融規制や国の財政規律をめぐってなど、複雑で激しい闘争が繰り返されている。
 G20による国際協調は、すでにきわめて難しい状況に立ち至っていた。

共同声明の大きな変化
 今回の共同声明は、従来の「あらゆる保護主義に反対する」としていた文章が消えた。また、為替に関する「競争的な通貨切り下げを回避し、競争目的で為替をターゲットとしない」などとの文言は残されたが、後述するように激論の末であった。地球温暖化対策をめぐる記述も消えた。
 「保護主義反対」は、先述したように会議の成果を演出するための「枕詞」ではあった。それでも、これがなくなったことは重大なことである。
 こうした変化をもたらしたのは、米国におけるトランプ政権の登場である。
 トランプ政権は、米国内の危機の深まりを背景に登場した。歴史的な製造業の衰退、その下で零落させられた白人労働者層は既存の政治への不満を高めた。共和党非主流派のトランプ氏は「米国第一」を掲げ、その不満を悪用して政権の座に就いた。
 トランプ政権は登場後、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉要求、さらに中国や日本、ドイツなどとの貿易不均衡の是正を求めている。
 すでに日本との間では、自動車・農産物を中心に市場開放などの要求をのませるべく、「新経済対話(新枠組み)」の設置で合意した。
 G20会議で、トランプ米政権のムニューシン米財務長官は、「現政権は異なる貿易観を持つ。過去の声明は適切ではない」などと述べた。トランプ政権は、米国が抱える多額の貿易赤字の原因を、他国の「不公正な貿易」に求め、「世界的な不均衡を縮小する」(ムニューシン長官)などとしている。
 米国は建前としての「保護主義反対」を投げ捨て、これに「公正な貿易」を対置し、自由貿易の建前すら投げ捨てて、二国間交渉で貿易不均衡の解消をめざすことを表明したのである。「公正」とは、あくまで米国の立場からの「公正」である。これは、自国の危機を他国に転嫁することを公言するものである。

傾向は世界的に広がる
 米国の策動に対して、ドイツは「貿易はG20財務相会議の本来のテーマではない」(ジョイブレ財務相)などとけん制した。最大の対米黒字国である中国は、「『公正』が何を意味するのかはっきりしない」と、米国の「公正な貿易」という文言の盛り込みに反対した。駆け引きの末、従来の表現を削除することで折り合った。
 為替問題では従来の文言が残ったが、これも「波乱含み」であった。米国は「通貨安競争を懸念する」との文言を声明に入れるよう、事前の事務レベル会議で求めた。これに、「通貨安の仕掛け人」としての名指しを避けたい中国と日本、議長国のドイツが抵抗し、本会議では大きな問題になることは避けられた。
 麻生財務相は「『毎回同じこと言うな』という程度のもの」と強がり、こうした対立を隠そうとしているが、事実は異なる。安倍政権は、米国の態度を苦々しく思いつつも、全体としては引き続き、先兵役の役割を果たした。国際協調には、いちだんの亀裂が入ることになった。共同声明の結果に対しては、フランスが「残念に思う」(サパン財務相)との声明を出している。
 今回の声明を生み出した主要因はトランプ米政権だが、この傾向は、米国にとどまらず、世界に広がらざるを得ない。
 トランプ政権の登場と今回のような態度は、リーマン・ショック後の危機が深まり、政治など上部領域に影響てその危機を深めたこと、一部の国・地域では、この上部領域の危機が歴史を動かす主要な課題となったという、世界的な流れの一部である。同様の例は、昨年の英国国民投票での欧州連合(EU)からの「離脱」、あるいは欧州諸国での難民問題や「テロ」の激化などとして表面化している。
 諸国の支配層は、ますます「協調」どころではなくなる。

日米関係厳しく
 とくに正念場を迎えるのが、日米関係である。
 日米両政府は、四月に初めての経済対話開催を控える。G20という多国間会議の場は乗り越えられたが、日米経済関係はこれから緊迫した本番を迎える。
 すでに、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表候補は「農業分野では日本が第一の標的」と明言している。最近では、東芝傘下の米原子力企業ウエスチングハウス(WH)への救済策を求め始めている。
 安倍首相は、メルケル独首相との会談をはじめとする欧州歴訪で、日欧経済連携協定(EPA)締結をはじめとする「自由貿易の推進」で一致した。安倍政権なりに、米国の圧力をかわそうとやっきになっているのである。
 だが、それで乗り切れるほど、米国の要求は甘くはないし、安倍政権がその要求をはねつけるのは不可能である。トヨタ自動車はトランプ大統領に「一喝」され、米国への一兆円規模の投資を表明したものの、「感謝」さえされなかった。米国の危機がきわめて深く、余裕がなくなっているからである。
 わが国製造業の根幹で、広いすそ野を持つ自動車産業、さらに地方経済の基礎である農業分野でいちだんと譲歩し、農産物の市場開放、あるいは自動車の米国現地生産の拡大(需要が伸びないなか、当然にも国内は空洞化)となれば、労働者・国民生活への大打撃となる。
 アベノミクスの前提条件、さらに安倍政権の存立さえ危ういものとなりかねず、わが国支配層、安倍政権は戦々恐々としている。すでに農産物などでは譲歩のための準備に余念がないようである。売国政権では、国民経済・国民生活を守ることは不可能である。戦略を持った、独立の政権でこそ、激動の世界で生きていけるのである。 (O)


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