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2017年2月25日号 2面・解説

内外で強まる財政拡大論

米国の圧力で危機深まる

 安倍政権は、二〇一六年度第三次補正予算を手始めに、二十八兆円の経済対策を行おうとしている。一方、内閣府は一月二十五日、「中長期の経済財政に関する試算」を発表し、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させる目標達成が不可能であることを自白した。安倍政権は財政拡大を正当化する「理論」にしがみつこうとしているが、「日本発」の破局がますます忍び寄っている。


 内閣府の試算によれば、二〇年度のプライマリーバランスは八・三兆円の赤字となり、赤字額は、昨年七月に公表した試算をさらに上回った。安倍政権が「国際公約」としてきた「黒字化」は不可能である。
 しかも、これは名目三%(実質二%以上)の経済成長を前提としている。バブル崩壊後の「失われた二十年」の間、リーマン・ショック後の落ち込みの反動による一〇年を除き、日本経済は三%以上の経済成長率を実現できたことはない。実際の成長率は、これを下回ることは確実である。
 経済成長率が低まれば、当然にも税収は低下する。二〇年の財政赤字は「八・三兆円」程度では収まらないことはほぼ確実である。こんにち、日本の政府累積債務は、国内総生産(GDP)の二倍を超え、ソブリン(国家債務)危機下にあるギリシャを上回って先進国中最悪である。この財政危機はいちだんと深刻化することは疑いない。

安倍政権に「援軍」?
 危機がいちだんと深まるなか、打開の手段として、逆に、財政拡大論を肯定する「理論」が登場してきた。米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授らによる「シムズ理論」で、内閣官房参与でもある浜田宏一・米イエール大学名誉教授が紹介して知られるようになった。
 この「理論」は、以下のようなものである。
 (1)ゼロ金利下でも追加の財政投入を行う、(2)財源は、将来の増税や歳出削減で賄うことを前提にせず、インフレで解消する、(3)これまで追加財政を繰り返してもインフレにつながらなかったのは、政府が同時に「財政健全化」を約束していたからで、この制約をなくすべき、などというものである。
 要するに、政府が「インフレ目標の持続的な達成が視野に入るまでは、増税は行わず、財政拡大政策を続ける」と宣言することで、「財政再建計画の放棄」によって「デフレ脱却」を実現しようとするものである。まさに、際限のない財政投入を「理論」化したものといえよう。クルーグマン米プリンストン大学教授も似たようなことを唱えていたが、シムズ氏はより「大胆」である。

金融依存のアベノミクス
 黒田・日銀総裁は二月十四日、衆議院予算委員会での質問に答え、「シムズ理論」を否定してみせた。だが、公然と認めることが困難なだけで、安倍政権は「援軍」を得た格好で、本音は「ありがたい」と思っている。
 それは、政権は誕生以来のアベノミクスの「三本の矢」(金融緩和、機動的財政政策、成長戦略)が破綻に追い込まれているからである。
 一三年以来の量的質的緩和は、マイナス金利を伴うところまで拡大した。財政措置も繰り返し実行され、昨年には二十八兆円規模の経済対策も決まった。二〇年の東京五輪は、財政拡大の格好の口実となっている。成長戦略は遅々としている上に、その「目玉」であった環太平洋経済連携協定(TPP)から米国が離脱し、打撃を受けている。
 これらの政策、とくに金融緩和はインフレ政策で、大多数の国民から多国籍大企業、投資家への富の移転にほかならない。アベノミクスは、この側面ではまさに「成功」した。多国籍大企業、投資家が株などの資産価格上昇、さらに円安による海外収益の拡大で潤う一方、国民生活は輸入物価の上昇などでいちだんと厳しくなった。さらに、増税や社会保障制度の改悪による負担増も襲いかかった。マイナス金利は、外国人投資家に恒常的収奪を許すものともなった。
 国全体の経済成長はおぼつかず、「デフレ脱却」どころではない。経済の最大の要素である個人消費が伸びないからである。「二%程度」の物価目標達成も、延期されている。
 安倍政権は「新三本の矢」「地方創生」「経済の好循環」などと目先を変えているが、実質的に賃金が上がった労働者はわずかであるなど、これらも功を奏していない。

緩和政策も内外で限界に
 こんにち、アベノミクスはますます限界である。
 日銀が毎年、財政赤字の二倍もの国債を購入し続けていることで、国債発行残高の四割以上を日銀が保有している。このまま進めば、来年には、日銀が買う国債が枯渇する。一般に、市場での売買が乏しくなると、価格が上下動しやすくなる。日銀の保有高増大は、国債暴落の危険性を高めるのである。
 さらに、米国からのけん制が強まっている。オバマ前政権も円安をけん制してきたが、トランプ政権は為替や通商政策など、対日要求をいちだんと拡大させている。圧力は、設置の決まった「新たな経済枠組み」の内外で激化する。自動車や農産物が、当面の通商要求となろう。
 これ以上の金融緩和策の拡大は、米国に「円安政策」と受け取られかねず、難しくなった。金融緩和策は、米国の要求を受け入れる上で、国内矛盾の緩和策としても使いたいところだが、米国の許容範囲は狭くなっている。米国が利上げに動こうとするなか、金利上昇の波及を食い止めるのも難しい。
 また、米国は日本の内需拡大(財政出動)や軍備増強、米国からの兵器輸入拡大を求める可能性が高い。北大西洋条約機構(NATO)加盟国のように、防衛費の対GDP比を「二%」とするよう求められる可能性も排除できない。中曽根元首相ら「世界平和研究所」も、当面、現行の約一%から「一・二%」に拡大することを提唱している。

破局は迫っている
 アベノミクスが破綻に瀕するなか、安倍政権に残された手段は、国債増発を含む財政出動である。米国の要求はその口実を求め、対米従属下での軍事大国化をめざす安倍政権にとっては「渡りに船」の面もある。
 だが、米国、しかも浜田氏という札付きの人物が紹介する「理論」だけに、米国による思想・政治工作を疑うことも十分に可能である。
 いずれにしても、財政危機は深化することになるが、「シムズ理論」で危機を打開できる保証はない。わが国の財政状況は深刻で、二%のインフレを続けても、債務半減だけで二十年以上かかる。その上、財政政策への不信任、国債信用度の下落を招きかねない。
 安倍政権は公式に財政再建を放棄する立場はとれないが、プライマリーバランス黒字化の公約が実現不可能であることは理解している。二〇年度に八・三兆円の不足分をすべて解消しようとすれば、消費税率を一三%程度にまで引き上げる必要がある。一〇%への増税さえ延期に延期を重ねているなか、これは政治的に不可能だろう。
 一部のエコノミストなどからは、「黒字化を絶対目標とするのではなく、赤字幅の縮小をめざすべき」などの意見が出されている。財政再建をめぐる、支配層内の意見の違いはますます顕在化することになろう。
 今回は詳述できないが、財政赤字の責任は国民にはない。増税などの国民負担増ではなく、「赤字」の下で肥え太ってきた多国籍大企業にこそ責任をとらせるべきである。
 遅かれ早かれ、日銀の国債買取による金利低下は限界に達し、わが国をインフレ、金利上昇、資金流出、財政破綻などの破局が覆うことになろう。
 破局がいつ、どのような形で訪れるかは、予想しがたい。それでも、近づいていることは確かである。安倍政権を倒さない限り、この道を押しとどめることはできない。    (K)


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