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2016年4月15日号 3面・解説

「パナマ文書」の暴露で注目

タックスヘイブンは米英の道具

 パナマの弁護士事務所から漏えいしたとされる「パナマ文書」が、世界の政治を揺さぶっている。文書の全貌はいまだ明らかではないがが、ごく一握りの多国籍大企業や政治家が巨万の富をタックスヘイブン(租税回避地)に蓄財していることが暴露された。全世界の労働者階級、人民にとって、怒りなくして聞けない。タックスヘイブンは、米国を中心とするグローバル資本主義による人民収奪の一形態である。


  「パナマ文書」には、英国のキャメロン首相、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、ロシアのプーチン大統領、習近平・中国国家主席などの側近や親戚による、タックスヘイブンの利用が記されているという。米国の制裁対象である、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)やイランの団体名もあるとされる。事件の余波で、グンロイグソン・アイスランド首相は辞任に追い込まれた。他国でも、反政府デモが起きている。
 ロシアや中国は、文書流出の背後に米国がいるとして非難している。情報公開サイト「ウィキリークス」は、グルジア紛争などの背後で暗躍した米投資家ジョージ・ソロスの存在を指摘している。というのは、暴露に関わった「国際調査報道ジャーナリスト協会」(ICIJ)が、ソロスらの財団から支援を受ける米国NGO(民間団体)の下部組織だからである。
 文書の全貌はいまだ明らかではなく、今後も推移を見なければならないが、こうした指摘には一定の説得力がある


100以上ある回避地
 こんにちの資本主義社会を支配する、大銀行を頂点とする大企業、資本家は、労働者を搾取するだけでなく、自国政府にさまざまな減税や補助金などの優遇措置を行わせている。これらは国内措置だが、タックスヘイブンはその「国際版」と言うべきものである。
 タックスヘイブンは、オフショア市場、あるいは「国際金融センター」と呼ばれることもある。本来、企業がある国で登記されたり、利益を上げれば、さまざまな税を支払う。だが、タックスヘイブンはこれを著しく軽減し、資金調達や運用を行いやすくしている。また、投資した企業や個人の情報を秘匿する。
 こうしたメリットに目を付けた大企業や投資家が、タックスヘイブンを利用している。
 現在、タックスヘイブンと呼ばれる地域は、世界に百カ所以上ある。
 ヨーロッパでは英国領のジャージー島、マン島、ルクセンブルク、モナコ、キプロス、スイス、リヒテンシュタイン。中東ではアラブ首長国連邦のドバイ、アジアではシンガポールや香港。中南米では英領ケイマン諸島、バージン諸島、パナマなどである。東京にも、一九八六年に「東京オフショア市場」が開設されている。

巨大な資金を吸い込む
 タックスヘイブンに登録された企業数は八万にも及び、世界のヘッジファンドの四分の三が書類上の本拠を置いている。
 流れ込む資金量は、ますます増大している。こんにち、世界の貿易量の半分以上が、(モノの動きとは別に)書類上はタックスヘイブンを経由している。すべての銀行取引の半分以上、多国籍企業の海外直接投資の三分の一も、タックスヘイブンを経由して送金されている。世界のタックスヘイブンに「保有」されている資産増額は、世界の総生産(GDP)の約四分の一、米国のGDPに匹敵する約十二兆ドル(約一千三百兆円)と試算されている。米国企業のM&A(合併・買収)資金の約三分の一は、タックスヘイブンで調達されているという。

多国籍大企業のための存在
 グローバル資本主義の下で、少数の金持ち、資本家にますます富が集積し、労働者階級、人民は貧困状態に追い込まれている。支配階級が自分たちの巨大な富を隠匿しようとするのは必然で、タックスヘイブンは実に便利な存在である。犯罪組織も、マネーロンダリング(資金洗浄)に活用する。タックスヘイブンとなる地域は、そうした「需要」を見越して待ち構えている。
 こんにち、世界の国境を越えた貿易の三分の二が、多国籍大企業の内部で起きているため、かれらは移転価格を人為的に操作することなどで、利益を低税率のタックスヘイブンに移す。たとえば、某国産品を市場価格よりも異常に高い価格で「仕入れた」ことにして収益を移転させるなどの手口である。ある試算によると、こうした操作のため、発展途上国からの資金流出は、本来入るべき税収の目減り分も含め、年間一兆ドル(約百八兆円)にも達する。これは、途上国に流入する世界の開発援助(ODA)の約十倍である。
 各国政府にとっては、入るはずの税収が入らなくなる。その分は、労働者をはじめとする人民に転嫁される。全世界人民からすれば収奪にほかならない。
 タックスヘイブンは「税逃れ」という「合法的サギ」だけでなく、多国籍大企業が世界の中小国・人民を収奪するための大がかりな道具の一つなのである。

米英が最大の受益者
 タックスヘイブンの成立・発展は、英国、現在では米国の国家戦略と密接に結び付いている。
 タックスヘイブンは、一九六〇年代頃から、米欧企業の多国籍化にともなって発展した。
 七一年、米ドルは金の裏付けを失った。だが、その後のオイルショックで産油国に流れ込んだ膨大なドルは、英国ロンドンのシティに集まり、さらに米国に環流した。これは、資金を環流させることで全世界を収奪して「繁栄」を維持しようという、米国の戦略でもあった。
 英国はタックスヘイブンの「元祖」で、この傾向は九〇年代半ばの「金融ビッグバン」で加速した。マン島、ケイマン諸島、香港など、英国系のタックスヘイブンは世界の銀行資産の三分の一以上を保有し、こんにちもシティの「外縁」として、その金融的「繁栄」を支えている。
 英国の後を追って金融大国となった米国は、英国の存在を利用し、あるいは自国に同様の地域をつくってときに対抗した。米国の金融を支えるのはニューヨーク州のウォール街だが、これを支えているのが、近隣のデラウェア州である。同州は会社の設立・解散の州法が緩いため、ニューヨーク証券取引所に上場する会社の半数以上が、同州で登記されている。
 米国は、このような緩い規制と無税・軽減税、情報の秘匿性、さらに金融工学のノウハウで、世界から資金を引き寄せている。米英は、巨大な「タックスヘイブン国家」にほかならない。国際通貨基金(IMF)でさえ、英国全体を「オフショア法域」と認定しているほどである。
 タックスヘイブンという仕組みは、米英が金融面から世界を支配するための道具なのである。

対応迫られる支配層
 リーマン・ショック後、各国支配層は危機打開を口実に、財政支援などで大銀行・大企業を助ける一方、労働者をはじめ人民にさまざまな犠牲を押し付けている。人民の生活は悪化し、各国政府への不満が高まり、階級闘争が激化している。一部の国では内戦状態となり、議会制民主主義を採る国でさえ政権交代が相次いでいる。「テロ」も、同様の背景で起きている。
 不安定化する各国政府にとって、人民の不満を緩和する措置も必要である。また、特に先進諸国はどこも国家財政が厳しく、過度の「課税逃れ」を見過ごす余裕はない。さらに、米国は「テロ資金対策」を急がざるを得なくなった。
 こうして、オバマ米政権の主導の下、二十カ国・地域(G20)会合では、多国籍大企業によるタックスヘイブンを使った「租税逃れ」への対策が議題になってきた。
 だが、米国をはじめとする先進諸国が、タックスヘイブンをなくすことはできない。
 各国は危機の中で激化する市場争奪に対応するため、大企業への支援を競い合っている。安倍政権も「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、法人実効税率の引き下げ競争に参入した。各国とも、タックスヘイブンと同じ土俵で税金引下げや規制緩和の競争に参加している。かれらにできることは、せいぜい「形ばかりの規制」を行って、人民の怒りを(少しの間だけ)そらす程度のことである。
 「パナマ文書」が暴露されるに至った政治的背景とは別に、大企業、金持ちには「税逃れ」が許され、人民は搾り取られ続けるという事実が改めて明らかになったことは、帝国主義の世界支配と闘う中小国や労働者人民にとって悪いことではない。
 全世界の労働者階級、とくに先進国の労働者が中小国と連帯し、時には一部の帝国主義国とも連携して、米国と闘うことの重要性は、ますます鮮明となっている。      (K)


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