ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2017年1月1日号・10〜11面

真の独立めざす世論を

植民地状態直視すべき

編集者、「日本はなぜ、『基地』と『原発』を
止められないのか」著者
矢部 宏治

 ――矢部さんは「日本はなぜ、『基地』と『原発』を止められないのか」「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」の著者として知られています。この問題にかかわるようになったきっかけは何でしょうか?

 それは二〇一〇年の、鳩山・民主党政権の崩壊でした。鳩山首相があまりに危険な普天間基地を、たった1一つ「県外へ移設」しようとしただけで、「勝手なことをするな!」と外務官僚・防衛官僚・大手マスコミから大バッシングされ、わずか九カ月で退陣に追いこまれてしまった。この問題をきっかけに、沖縄の基地問題に関心を持ちました。民意とは異なるところからの圧力で、政治が動かされているという現実を痛切に感じたのです。
 それで沖縄を訪れ、「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること」という米軍基地のガイドブックを執筆し、さらに「〈戦後再発見〉双書」というシリーズ(現在、五冊刊行)を企画し、そのエッセンスをまとめる形で、ご紹介いただいた二冊を上梓しました。
 これらの本にかかわるまで、私はまったくの「ノンポリ」だったのですが、沖縄の現実に触れたことで、日米間で結ばれたさまざまな密約の存在を広く世の中に知らせる必要があることを強く感じました。安倍政権が辺野古での新基地建設、オスプレイの全国配備、さらに集団的自衛権行使のための安全保障法制といった政策を強行するなか、重要な意義があると思ったからです。
 第二次世界大戦後、日本は米軍の占領下に置かれました。その後、一九五二年に独立を回復した後も、日米間には安全保障上のさまざまな密約があり、現在の日本は依然として占領体制が継続しているような、ひどい状況にあります。しかも、その事実が国民はもちろん、政治家や官僚の中でさえほとんど知られていないのです

日米合同委員会での密室協議
――先日、沖縄県名護市沖にオスプレイが墜落しました。米軍関係者が機体の残骸を収容している光景が報じられましたが、日本の領土・領海内で米軍が作業を行っていることについて、誰も疑問を呈しません。「どこかで見た光景」ですが……。

 その通りです。〇四年、沖縄県宜野湾市の沖縄国際大学内へのヘリコプター墜落事故で、米軍は市民や日本の警察を一切排除しました。一九七七年に神奈川県横浜市の住宅街のファントム偵察機が墜落したときも同様です。駆けつけた自衛隊は、パラシュートで脱出した無傷の米軍パイロットだけを救助し、厚木基地へ帰還しました。この事故では幼児二人が死亡し、その母親も全身やけどと精神的ショックで四年後に死亡しました。遺族は米軍パイロットを業務上過失致死罪などで刑事告訴しましたが、不起訴処分となりました。
 そのように、実は日本の国土は米軍に関して現在もまだ治外法権状態にあり、緊急時にはその真実が露呈するのです。
 このほか、米軍犯罪について「特別に重要な事件以外は起訴しない」、米軍機は「危険な飛行をしてもよい」などの密約や特別法が数多く存在します。そうしたさまざまな国民の知らない法的取り決めによって、日本はがんじがらめにされており、国家主権は徹底的に奪われています。

――まさに植民地同然の状態といえますね。

 そのような取り決めの多くは、五二年の旧安保条約の締結以来、日米合同委員会という秘密会議で決められたものです。そのメンバーは米国側が在日米軍の高官たち(在日米軍司令部副司令官、陸海空・海兵隊の四軍幹部などで、外交官は大使館公使が一人だけ)で、日本側は各省の超エリート官僚たち(外務省、法務省、防衛省、財務省など)。毎月二回、東京都内の米軍専用施設と外務省で交互に会合を行っています。
 通常、国家間の協議は「文官と文官」「軍人と軍人」で行うべきものですが、この秘密会議は軍人である米軍高官たちが、文官である日本のエリート官僚たちと直接協議するという他国にない仕組みです。これについては、米側の外交官でさえ「きわめて異常」と述べています。
 この秘密会議で結ばれたさまざまな密約は、明らかに憲法違反のことも含めて、国内法の根拠がなくても実行されています。ところがその日米合同委員会での合意文書や議事録は、原則として非公開になっている(ただ外務省が恣意的に選んで内容をまとめた、あたりさわりのない「概要」が発表されているだけです)。ですから日本は法治国家ではないというのは、文字通り本当の話なのです。

「基地権密約」とは
――その日米間の密約について具体的に伺います。まず矢部さんは「基地権密約」と「指揮権密約」の二つに分けて指摘していますが、まず、「基地権密約」とは何でしょうか?

 簡単に言えば、「米軍は日本全土を自由に使う権利を持っている」ということです。五一年に結ばれた旧日米安保条約では、米国は日本政府へのいかなる相談もなしに、「極東における国際平和と安全の維持に貢献するため」、在日米軍を使うことができました。ここで注意してほしいのは、条約の内容が米軍を「極東という地域内で使える」のではなく、「極東の平和と安全のために使える」となっていることです。地域の限定ではなく、目的の限定なので、米軍が必要と判断すれば、世界中どこででも軍事行動ができるのです。この状態は、六〇年に改定された現在の安保条約でも基本的に変わっていません。
 また、旧安保条約に付随する日米行政協定では、在日米軍が自由に行動できるのは「米軍基地の内部」だけではなく、「基地に出入りするために必要な、隣接するすべての空間」となっていました。この内容もまた、「日米地位協定+密約」というかたちで、現在までそのまま受け継がれています。
 これが、首都圏の一都八県にまたがる広大な米軍管理空域(横田ラプコン)が、いまだに存在する大きな理由となっています。この空域を使った日本への出入国、米軍基地への出入りが「完全にノーチェック」である一方、羽田〜西日本間の民間機は迂(う)回や危険な急上昇飛行などを強いられています。山口県岩国市を中心とした中国地方にも、沖縄本島上空にも、そうした広大な米軍の管理空域があります。
 旧安保条約下の行政協定では、そうした基地の外での米軍の自由な行動も「米国の絶対的な権利である」としていたものを、現安保条約下の地位協定では、基地の外では日本の国内法の範囲内で行動すると改定されました。一見、日本の主権が認められたかのようですが、日本政府はその裏で、米軍の権利は「(旧条約下と)変わらなく続く」(藤山外相とマッカーサー駐日米大使の秘密了解覚書、六〇年)という密約を結んでいます。さらに日米合同委員会による密約が加わって「基地の外での米軍の絶対的な権利」もそのまま継続しているのです。
 安保改定当時の岸政権は、占領状態の継続である現状を「対等な日米関係」に変えるのだというスローガンをかかげていましたが、それはまったくできずに終わりました。この改定によって日米の軍事面での隷属的な関係は、むしろ強化され、固定化されてしまったのです。

「指揮権密約」とは
――次に、指揮権密約について伺います。

  「指揮権密約」とは、有事の際、「自衛隊は米軍の指揮下に入る」という秘密の取り決めです。「有事」かどうかは米国が判断しますので、海外派兵が可能になったいま、自衛隊が世界じゅうで「米国の戦争」を共に戦わなければならない危険性が高まっています。
 これは、一九五二年と五四年に吉田首相が口頭で結んだ密約です。もともとは、旧安保条約の締結過程で米国側から提案されたものですが、あまりの内容に条文化できず、密約化されました。
 「基地権密約」も独立国の主権を著しく侵害するものですが、まだ「費用対効果がよければ、それでいいじゃないか」という言い訳ができる。米軍に基地を提供している国は他にもあるからです。しかし、軍隊の指揮権まで提供する取り決めがあるとなると、これは「完全な属国」ということになってしまいます。
 自衛隊の前身である警察予備隊は、朝鮮戦争に出動した米軍の基地を守るために、米軍の指示と訓練によって創設されたものです。現在も、自衛隊の装備はほとんど米国製品の輸入かそのライセンス生産です。異常に多い対潜哨戒機をはじめ、自衛隊は米軍の指揮下で作戦に従事することを前提に組織されています。
 米軍の指揮権は「暗黙の了解」ではなく、政府間の公式な取り決めなのです。

――矢部さんは、この指揮権密約を前提に考えたとき、二〇一五年の安保法制制定が、いかに重大な意味をもつかということをくり返し強調されていますね。

  これまでは憲法九条の解釈によって、自衛隊は海外派兵ができないと考えられてきました。そうすると、たとえ米軍に指揮権をもたれていたとしても、戦争になるのは日本国内、つまり自国の防衛戦争だけですから、まだぎりぎり矛盾が露呈されなかった。「自国が攻められたときに、強い米軍と一体となって戦うのは当然じゃないか」と。
 しかし安保関連法の制定によって、その「国内」という縛りがなくなった。いま、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)などで行なわれているのは、海外での戦闘の「慣らし運転」です。そのあとは確実に、米国が主導する全世界での「有志連合」に、必ず自衛隊が加わって戦争をするという、悪夢のような未来が待っています。

国連軍地位協定と朝鮮半島の平和
――そのような主権無視の状態は、どこに始まるのでしょうか?

  始まりは一九五〇年に始まった朝鮮戦争です。当時、米軍の占領下にあった日本がこの戦争に協力させられ、その「後方基地」になったことは知られています。掃海艇を派遣し、戦死者も出ています。
 多くの日本人が意識していないことですが、朝鮮戦争は五三年に「休戦」しただけで、法的にはまだ続いています。日本はその「継続中」の朝鮮戦争を支援するために、五四年に米国(米軍)などとの間で「国連軍地位協定」を結ばされています。ですから、在日米軍は「国連軍」としての顔も持っており、それがまた「異常な占領継続状態」の法的根拠となっているのです。
 五一年、サンフランシスコ講和条約、次いで旧日米安保条約に署名した吉田首相は、実は、それに続き、アチソン米国務長官との間で「吉田・アチソン交換公文」を結んでいます。そこで日本は、独立後も国連軍が朝鮮半島で行動を行っている限り、支援を行うことを約束させられました。問題なのは、交渉の途中でその条文がどんどん書き換えられ、日本の負う法的義務が当初は「朝鮮での国連軍の戦争」への支援だったのが、最後は「地域の限定があいまいな米軍の戦争」への支援になってしまったことです。
 朝鮮戦争はまだ法的には終了していませんから、そのために結ばれた「吉田・アチソン交換公文」も有効で、日本は国連支援の名のもとに「地域の限定があいまいな米軍の戦争」を支援する法的義務をもつということになっています。
 現在のあまりにも不平等な日米の軍事的関係は、日米安保の基礎を作ったジョン・フォスター・ダレス米国務長官が、それを単なる二国間条約ではなく「国連と加盟国」の関係をモデルとしてつくったことに原因があります。その法的根拠となっているのが「吉田・アチソン交換公文」と「国連軍地位協定」です。

日本の独立に向けてなすべきこと
――私たちは、日米安保条約、日米地位協定などの破棄を主張しています。矢部さんは、日本が真の独立国になるためには何が必要だと思いますか?

  二つあると思います。
 一つは、フィリピンが憲法改正で外国軍の駐留を禁止し、九一年に米軍を完全撤退させたケースを見習うことです。この出来事は日本では意図的にわい小化されていますが、国際的には「民主主義の輝ける勝利」として、米国の知識人などからも高く評価されています。フィリピンは第二次大戦までは、米国の本当の植民地でした。沖縄など比べものにならないほど超巨大な米軍基地もあった。当然、米軍撤退などを憲法で主張したら、どんな報復をされるかわからないという強い恐怖もあった。
 しかし、実際にやってみると、米国との関係は悪化せず、安全保障条約も継続されました。そのなかで、中国の動きを見ながら、一部米軍の再駐留を許可したり、またその撤回を示唆(しさ)したりと、日本と違って完全に正常な主権国家としての地位を回復しています。このフィリピンのケースをモデルに、外国軍の駐留を認めない条項を憲法に加える方法があり得ると思います。
 もう一つは、朝鮮戦争を法的に終わらせ、「国連軍としての米軍」の駐留を不可能にすることです。
 日本がフィリピンと違うのは、日本は第二次大戦の敗戦国であり、国連憲章上の「敵国」だということ。そのこともあって米国との二カ国間関係が、通常の二国間関係とは違っている。基本的に「国連の代表としての米国」と「国際法における最下層の日本」という関係が、条約の背後に隠されているのです。その状態を根本的に解決するには、「東アジアにおける第二次大戦の戦後処理」を自らの手で完成させる必要があります。同じ敗戦国で、やはり国際法上の「敵国」でもあったドイツは、長い外交的努力の果てに東西ドイツの再統一を成し遂げ、欧州連合(EU)創設を主導して、戦勝国との関係を法的に清算し、九〇年代に完全に主権を回復しました。
 現在の朝鮮半島は、日本が引き起こした戦争によって、日本の代わりに分断されてしまった側面があるわけですから、日本は朝鮮戦争の法的な終戦、つまり朝鮮半島における平和条約の締結を、あらゆる方法で支援する義務があるのです。同時にそのことが、現在の異常な日米関係を脱するための最善の道なのです。
 外交的には、「憲法改正による米軍の強制的な撤退」というフィリピン・モデルがあることを米国側に意識させながら、「米国にも経済的利益をもたらすような形での根本的戦後処理」というドイツ・モデルを粘り強く進めていくということです。

――そのために、私たちは何をすべきだと思いますか?

  まず、事実をよく見るということです。「重要な問題ほど、近くまでいって、きちんと観察する」必要がある。「遠く」から見ているだけだと、米軍の支配力は圧倒的で、絶望感しか感じないでしょう。また、多くの国民は密約の事実を知りません。
 しかし、いま急速に明らかになってきた日米の本当の法的関係、それが「朝鮮戦争時に生まれた占領下での戦争協力体制」であり、当時のまま六十年以上続いているのだという驚くべき実情が日本の国民、政治家、官僚に広く知られるようになり、怒った国民がきちんとした政権をつくって、「さすがにこれだけはやめさせてほしい」といえば、米国務省も「いや、このまま継続する」ということは絶対に言えません。それほど異常なことを、戦後の日本政府と米軍は結託してやってきた。それは米軍の思惑だけでなく、日本にとっても、とくに経済面で非常に大きなメリットがあったからです。
 米国のまともな外交官たちのなかからも、こうした「日本政府と米軍」の異常な直接的関係は「おかしい」という声が常にあがっています。そうした事実を知れば、諦める必要などないことが分かります。
 フィリピンやドイツのケースをよく研究して、国際法の原則にのっとって粘り強く行動すれば、日本の主権回復は必ずできると思っています。またそれは米国民自身にとっても大きな利益をもたらします。米政府が冷戦の崩壊後、みずからつくった国連憲章の最大の破壊者となり、一国で世界を軍事支配できるような妄想をもつようになったのは、日本のあまりに異常な隷属状態が、非常に大きな悪影響を及ぼしているのですから。

――ありがとうございました。

■やべ・こうじ
 1960年、兵庫県生まれ。慶応大学文学部卒業後、博報堂を経て、87年より書籍情報社代表。著書に「本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること」(書籍情報社)、「日本はなぜ、『戦争ができる国』になったのか」(集英社インターナショナル)など。企画編集シリーズに「〈戦後再発見〉双書」(いずれも創元社刊)など。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2017