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労働新聞 2016年4月15日号 6面

わが町における農業の実態 
深刻な影響もたらすTPP

汗水流し苦労しても赤字

福岡県みやこ町議会議員・柿野 よしなお

  環太平洋経済連携協定(TPP)承認案と関連法案が国会に上程されているが、安倍政権は情報開示を拒み、農家や国民生活への影響など本質的な議論はまったくない。福岡県の柿野よしなお・みやこ町議会議員は、自らの農家経営と同町の農業の苦しい実態を明らかにしたレポートをつくり、TPP批准阻止の闘いを進めている。同氏の了解を得て以下、掲載する。(編集部)


 私は中山間農業地域で農業しながら町議会議員を務めている。
 十五年ぐらい前から、米価の下落で生産を続けられなくなった小規模農家五戸の水田二・五ヘクタールを借りて合わせ三・六ヘクタールの水田で稲作と露地野菜を作っている。

私の周りの農業の状況
 いま、TPPが締結され、地域に重要な影響が出ようとしている。そこで私の周りの農業の状況を報告し、TPPが農村にどのような打撃を与えるものか共に考えていただきたいと思う。

 私の町は面積百五十一平方キロメートルのうち山林部は約六五%(九千七百六十一ヘクタール)、水田一五%(二千二百八十五ヘクタール)、畑二%(三百四十ヘクタール)をそれぞれ占めている。いわゆる中山間農業地域を広く抱えながら町の基幹産業は農業とされている。現在、八千六百世帯、二万八百人が暮らす。
 十年前の合併から二千人の減少である。主に中山間部からの人口流失が続く。さらに五年後までに三千人(一万七千五百人になる)の激減が予測されている。
 私の住んでいる集落全体の水田総面積は三十ヘクタールで約三十戸の農家で耕作をしている。これまでの国の稲作からの転作政策の流れのなかで水田に麦、大豆を作り農家個人でもらうより営農組織のほうが補助金で有利だからとの誘導から、十五年前に集落に任意の営農組合を結成し大型農機具や倉庫に国の補助金(補助率は三分の二で二千万円。借金は千二百万円)をもらった。
 補助金交付の条件に農業法人に移行することが義務づけられており、現在は農事組合法人を設立して麦と大豆の二毛作経営をしている。集落全域の水田を三つの区域に分け、毎年十ヘクタールを順に借り上げて(借地料三万五千円/十アール)麦と大豆を作付する。稲作からの転作率は四二%へと年々高くなり、三年に一回の割り振りが難しくなっている。野菜ハウスや山際の不良水田の休耕で辛うじて集落全体の転作目標を達成している状況である。
 集落に転作目標が定められ、達成できない個人や集落には行政からの各種補助金が出ない。例えばイノシシやシカの被害防止電柵や金網柵に町の補助金はない。国からの麦や大豆に対する所得補償なども一切出ない。
 町には八十四の農業集落があり、うち三十三の集落営農組織がつくられている。この営農組合(任意)や農事組合法人の経営も問題がある。収入全体に占める麦や大豆の売上は一割で、九割が国からの各種補助金である。収支は辛うじて釣り合ってはいるが、大型機械の更新のための積み立てなどが十分できない。高齢化で農作業従事者の確保もままならない。周りでは営農組合組織が休業しているところもある。

わが町の農家経営
 二〇一〇年の農林業センサスからみると、総農家数千八百十八戸(全世帯の約二〇%)、農業就業人口千九百六十六人(人口の九%)である。
 うち自給農家三百八十一戸。販売農家千四百三十七戸のうち主業農家百三十九戸、準主業農家二百七十二戸、副業的農家千二十六戸である。また専業農家四百五十一戸、第一種兼業農家百一戸、第二種兼業農家八百八十五戸である。
 耕地規模別にみると、一ヘクタール以下八百七十六戸、一〜三ヘクタール四百九十七戸、三〜十ヘクタール五十八戸、十ヘクタール以上五戸という規模で、稲(千二百七十一戸)、野菜(二百十三戸)、果樹、花き類を生産している。また畜産は乳用牛八戸、肉用牛三戸、採卵鶏四戸がある。
 〇六年生産農業所得統計から見ると、耕種的農業計では二十四億円でうち大きいものは米一三・三億円(作付面積千二百五十ヘクタール)、野菜六・二億円(八十四ヘクタール)、花き一・九億円(五・六ヘクタール)、果実一・五億円(八十四ヘクタール)などとなっている。また畜産計では六・八億円で乳用牛五・二億円うち生乳四・七億円、採卵鶏一・五億円、肉用牛〇・一憶円となっている。
 農業従業者千九百六十六人のうち男九百二十八人、女千三十八人と女性が多い。基幹的農業従事者では男六百九人、女三百八十一人で、このうち六十五歳以下のものは男百六十三人、女百十四人である。

農業収入で暮らしている人は
 こうした環境の下で個人の農家経営がある。このうち農業の収入で暮らしている人はどれくらいあるのだろうか。
私の経営状況から考察したい。
 わが家の水田耕作面積は三・六ヘクタールである。わが町では耕作規模からは上位五%に入る規模です。四二%の転作で平均二・一ヘクタールほどの稲作と稲作後の冬野菜五十アール、集落の営農組織への耕作地(平均一・五ヘクタール)の貸付収入が主なものです。
 〇九年から一五年までの我が家の農業収入と利益については以下のようである。


 表1のように、〇九年には農業所得で七十一万円の利益があったが、一一年以降急激に減少。一四年にはマイナス二十二万円となり、一五年にはマイナス六十七万円と赤字が急増した。原因の一つに米価の下落や資材費の上昇があげられる。
 次に私の収入全体を見る(表2)。
 一一年からはわずか(四十万円)だが年金が入るようになった。また、町議としての収入三百八十万円がある。このように農業外収入で農家経営を支えている状況だ。生活が苦しくなったのは年金以上に農業収入が減少しているからである。特に昨年は大変だった。
 野菜を作ることでかろうじて農業所得をプラスにしてきたが、稲作だけではこの間ずっと農業所得は赤字である。野菜の利益は稲作に比べ良く、〇九年から一三年では野菜の売上が百〜百五十万円程度あった。父が亡くなり、野菜ができなくなりコメ中心となった。
 私の周りを見ても、農業で食べているのはほとんどが野菜農家だ。ハウスでイチゴやホウレン草などの葉物やトマトなどを作っているが聞いてみると経営は厳しいという。
 二十ヘクタール以上の稲作農家もあるが大型農機具の購入で機械や設備の支払いに追われているようだ。ランの栽培農家や養鶏場でも借金が返せないと大変厳しい。
 三月の確定申告でもほとんどの農家は赤字だとの話が伝わってくる。今の農業に楽しい話が聞こえない。私も夏の水田の草刈りは死ぬ思いでしているが、汗に報いる今の日本の農業ではない、「日本死ね」といった心境である。


 図1で見るように全国的にも稲作はこのような状況である。
 農家が苦しくても稲作を続けているのは、水田を荒廃から防ぎ、地域環境の保全のためでもあり、一生懸命に汗を流しているのである。

TPPが追い打ち
 TPPの農林水産業に与える影響をわが県の試算では国の試算を横流しして算定(県内の農林水産物の年間生産額が一三年の千百二十三億円から十二〜二十億円減少するとの試算結果を発表)しているが、ある県では独自に算定して、国の試算の三〜四倍の大きな影響が出ると試算している。国の試算は、TPPの影響をあまりにも過小評価しているとの現場からの不満の声を取り上げてのことである。
 最近、わが県のJA中央会が学者を呼んで試算の説明を受けたら県の試算の十七倍ぐらい(三百億円前後)の影響があるということだ。TPPでますます農家の経営が深刻化するのは必至の状況である。
 わが町の中核農家で組織する会合で県の農業指導経験者の話しを聞くことができた。いま、県下で新規就農者が大きく減少しているという。コメの価格もさらに下がるだろう、外国には味の良いコメが作れる技術もある。TPPで大きな影響が農業にも出ると心配な話であった。
 さらに水田転作政策が廃止され、稲作が自由になれば、さらに米価が下がり、野菜や花き生産なども不安定になる。日本の農業が壊滅状況になるのではということが心配だ。


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