労働新聞 2002年11月15日号 学習

マルクス主義入門

エンゲルス著(1880年)
「空想から科学への社会主義の発展」(1)

資本主義社会の矛盾を解明


エンゲルス(1820〜95年)

★はじめに★

 現代の日本社会を眺めるとき、現状に明るさを見つけられる労働者がいるだろうか。倒産、失業、自殺が相次ぐ時代。若者は学校を出ても就職先がない。運よく就職したとしても賃金は上がらず、リストラの不安。会社のためにひたすら尽くしても、「明日から来なくていい」の一言で失業だ。職を失えば、家族も路頭に迷う。
 財産を持たない私たちは、働かなければ生きていけない。親を恨んだとしても、親も自分の親を恨むしかないだろう。「労働者の子は労働者」という現実を変えることはできない。
 体を酷使して働いた後に迎える老後は、幸せだろうか。政府からは「自助努力」を押しつけられ、医療費は上げられ、年金は下げられる。生活を切り詰めて蓄えた貯金はゼロ金利。幸せな老後なんて絵に描いた餅だ。
 世界を眺めるとどうだろう。核超大国の米国は圧倒的な武力を背景に、アフガニスタン、朝鮮民主主義人民共和国、イラクなどの小国の主権を蹂躙(じゅうりん)する。グローバリズムによって肥え太る人びとがいる一方で、食べ物がなくて飢え死にする人びとが後を絶たない。世界の貧富の格差は、絶望的に広がっている。
 先日、ロシアの劇場に立てこもってロシア軍の撤退を要求したチェチェンの若者たちは、虫けらのようの殺されてしまった。彼らは自分をとりまくどうしようもなく絶望的な社会の矛盾を、自分の命と引き換えに解決しようとした普通の若者たちだった。マスコミは紛争やテロは「憎しみの連鎖」だと騒ぐが、その根本原因については何も語らない。
 私たちが一生懸命働いても、なぜ景気は良くならないのか。なぜ私たちの生活は不安定で、政治は私たちの要求をかなえてくれないのだろうか。
 社会を深く見つめれば見つめるほど、疑問は大きく膨らみ、怒りは募るばかりだ。こうした疑問をもつのは少数派ではない。重要なことは、日に日に多くの人びとが社会矛盾を肌で感じ、怒りを蓄積しているという事実だ。
 では、私たちはこれらの怒りや疑問に、どうやって答えを出せばいいのだろうか。
  
★資本主義の現実から 出発したマルクス主義★

 結論を先にいえば、資本主義社会の矛盾の原因を解き明かし、解決の方向を労働者に示した理論がすでに存在する。その体系は「マルクス主義」と呼ばれている。
 マルクス主義の創始者であるマルクスとエンゲルは、今から百五十年ほど前の資本主義の興隆期に、ヨーロッパで活躍したドイツ人だ。彼らは、資本主義社会にあふれる労働者の貧困に心を痛め、その原因を解明する中で、社会発展の原動力を明らかにした。
 この理論の特徴の一つは、彼らの思いつきやひらめきで形成されたものではないということだ。すでにあるイギリス経済学、ドイツ哲学、フランス社会主義思想を手がかりに、それをさらに発展させたものとして登場した。そして、何よりも重要な特徴は、「今日の社会に広く存在している資本家と賃労働者の階級対立、生産の中に広く存在している無政府状態を認識する」ことから生まれたという点である。
 マルクス主義は人類の現在、過去を考察し、未来にも言及している。封建時代の次に資本主義社会が登場したように、資本主義社会の次に社会主義社会が登場する必然性を明らかにした。
 マルクスが掲げた社会主義は、それまでの空想的な社会主義と対比して、科学的社会主義と呼ばれている。この理論は資本主義の下で搾取・抑圧される世界中の労働者の心をとらえ、労働者階級の行動の指針となっている。
 ここで紹介する「空想から科学への社会主義の発展」(以下、「空想から科学へ」)は、一八八〇年にエンゲルスによって書かれた。今日でも各国語で発行され続け、マルクス主義の入門書として、広く普及している名著である。マルクス主義の思考方法と世界観は、目からウロコが落ちるような新鮮な驚きを、労働者にもたらしてくれるに違いない。

★本書の構成について★

 この本の内容を簡単に紹介しよう。本文は文庫本で六十ページほどで、あまり長いものではない。内容は三つの章に分かれている。
 第一章は、十八世紀以降のヨーロッパの人びとが、閉塞した時代を変革するためのうち立ててきた革命思想と空想的社会主義について述べられている。現実に基盤をおかない「空想的社会主義」がなぜ生まれたのか、なぜ空想的にならざるをえなかったのかを知ることができる。
 第二章では、事物や運動をどのように見るのか、対立する二つの世界観(形而上学と弁証法)について述べている。マルクス主義は「人間の存在をその意識から説明するのではなく、人間の意識をその存在から説明する」唯物弁証法の立場をとる。
 第三章では唯物弁証法にもとづいて資本主義を分析し、社会主義の必然性を明らかにしている。
 結語では「この世界解放の事業を成し遂げることは、近代プロレタリアートの歴史的使命である。この事業の歴史的諸条件と、それとともにその本性そのものを究明し、こうして、行動の使命をおびた今日の被抑圧階級に、それ自身の行動の諸条件と本性を自覚させることは、プロレタリア運動の理論的表現である科学的社会主義の任務である」と、高らかにうたっている。
 労働者階級の歴史的使命とは何なのだろうか。次号から「空想から科学へ」の内容を読み解きながら、いっしょに考えてみたい。    (Y)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2002